るろ剣でデビューした和月伸宏先生の週刊少年ジャンプ連載三作品目であり、同誌での最後の連載作品となっています。
打ち切りによって連載終了したにも関わらず、二度も完結編となる中編が掲載され、さらにはアニメ化までされたという妙に粘り強くしぶとい人気を誇る作品です。現在進行形で。
本作は少年漫画の王道を突き進みながら、常に打ち切りに追われていたからか異様にストーリー展開が早く、濃密なドラマを原作コミックスわずか10巻に濃縮されており、短いながらも読み応えがあり楽しめる作品です。
とくに主人公のカズキは連載当時から既に「今どき珍しいくらい王道の少年漫画主人公」と評されるほど、明るく正義感が強く無鉄砲で心優しい少年として描かれており、大変好感が持てます。
ヒロインの斗貴子さんも魅力的で、凛々しい戦士としての姿や冷酷残虐な狂戦士の姿、厳しくも優しい先輩としての姿、世間慣れしておらず普通の高校生たちに振り回される女の子としての姿など、多様な側面が始終描かれており、この二人は男女共にファンが多いカップルですね。
漫画武装錬金を無料で立読み!連載時の最終回、カズキが初めて弱さを零すシーン
ちなみに私は、連載時の最終回で今まで誰かを守り救うために戦い続けてきたカズキが初めて「オレがみんなを守るから、誰かオレを守ってくれ…」と弱さを零すシーンがこの作品で二番目に好きです。
連載途中でこんな弱音を吐かれたら幻滅しかねないのですが、最終決戦を間近に控えてオマケに連載終了する回でやられたら話も変わります。
そしてその後の最終決戦、カズキは今まで彼が守り救ってきた人々がいるからこそ、守り救われるという素晴らしいくらいの王道的完結っぷり。
原作最終巻の10巻は怒涛の展開が凄まじい!
ただ、この漫画で私が一番好きなシーン、というか話は2巻収録の16話「黒死の蝶」。
本作品のライバルキャラクターである蝶野攻爵がついに人型ホムンクルス=蝶人パピヨンとして転生し、実家で大暴れする回なのですが、この回が武装錬金、ひいては和月作品全体を象徴しかねないブラックとコメディとシリアスが一緒くたに混在した名話なのです。
そもそも蝶野は明治から続く資産家の跡取り息子として期待され、それに応える優秀な男として成長しましたが、不治の病に冒されてからは完全に家族からも周囲からも見捨てられ、忘れ去られた存在になってしまいます。
この経験と絶対に死にたくないという生への執念が融合して到達した結果が、人をやめ人型ホムンクルスへの転生になることだったのですが、そうして健康で頑強な肉体を手にした蝶野に対して実家で待っていた現実は……
次から次へとギャグ的なノリで実家の使用人たちを食い殺し、弟や父親をもその手にかけ、あれだけ生に執着したというのに、自分を知る人々の中でとっくの昔に自分は死んでいたのだと気づいた蝶野の哀しみ、憤り、そしてそれを真正面から受け止めるカズキの姿で終わるこの話は、連載時はリアルタイムで読みながら震えました。
今でも実際に読み返すと鳥肌ものです。うん、キモいのとか笑いとかも含めて。